第12号2000/06/01


佐藤浩子さんのレポート(2)

インド、ネパール、ハンディキャップのある人びと(佐藤浩子)


前号で「子づれのインド旅行は楽ちん」を書いて下さった佐藤さん、今号では障害を持った人々についてレポートしてくれました。らくてん通信第8号で大塚弘子さんが障害児を持つ家庭の様子について書いてくれていて(これも興味深いレポートでした)、それを読んだのをきっかけに、インド・ネパールでの障害者のくらしについて佐藤さんがレポートを送ってくれたのです。(編集長)

  こんにちは。リレーエッセイ共生(6)謎多き人物の正体は、、、?!(大塚弘子)を読み、インド・ネパールで感じたことを思い出したのでお便りします。
  ネパールでのこと。道で買い物に行こうと歩いていると向こうから「ハーイ」と元気に手を振って声をかけてくる人が。誰だろう、とこちらも手を振る。ねえ、あの人友達?と連れに聞く。「ん?知らないよ」「え?私も知らないよ」ちょっと面白い出来事だった。
  次の日の朝、近所の茶屋に行くと昨日の人が皿洗いをしている。また手を振ってあいさつしてくれた。どうやら日本で言う知恵遅れとか、そういう人らしい。でもここでは彼を日本みたいに見て見ぬふりとか、こわがるような人達は誰もいない。外でサッカーが始まると、彼は手を休めて観るのを楽しんでいた。彼よりずっと小さな子が皿洗いを手伝ったりもしている。他の人達と何ら変わらずに一緒に働き、生活しているようだ。誰も特別扱いしないので彼が浮き立たず、そうとは全く気が付かなかったのだ。もし、彼が東京の電車の中にいたらある種の緊張が走っただろうにと、日本と較べてその雰囲気がいいなあと思った。
  
  よく、ネパリは名前よりもあだ名で呼び合う。なかには太っちょ兄ちゃんやはげちょびんやら足が6本指一家とかここに書けないような、日本では「差別はいけないザマス!」と怒られちゃう名前がいっぱいある。
  ある日ネパリがお相撲さんのような体をしたチェコスロバキアのツーリストに「ねえ、おいらはこんなに痩せっぽちなのに、なんでおまえさんはそんなに太ってるんだい?どうやったらそんなになれるか、教えてくれよ。」と、真剣にたずねていた。一緒にいたイスラエル人は、「どうして女性に向かってそんな失礼なことを聞くの??謝りなさいよ!」とカンカンだった。
  そこらへんのこと、ネパリはどう思ってるの?と聞いてみた。向こうから腕を無くした人がやってくるとする。「えい、兄ちゃん、それどうしたんだい?」ネパリは必ずその人を捕まえて一体どうしてそんなことになったのか尋ね、その人が受けた感覚や思いを分かち合おうとする。そして今度から腕がない特徴が彼のあだ名となるのだ。人はみんなどこかが違うのだから、人と違う何かが呼び名になり、それが悪いとか、人を傷つけているといった考え方をしないのだ。周りの人は彼に対し当然のごとく手を貸し、彼の方は一切お礼を言わない。もし彼が何か失敗したりできないことがあっても周りの人に謝らない。皆、失敗や助け合いはお互い様という認識があるのだ。混んでいるバスで座ってたら立っていたおばちゃんたちが何も言わずに私のひざの上にバッグを次々とほうり投げてきた。ありがとうやごめんといった言葉を交わさないからといって彼らは引け目を感じないし、よその人も我がままに思わないのでこんなことを普通にする。ふーん、日本人にはない感覚だねえ。

  北インドのダラムサラはダライラマ14世を始め、多くのチベット難民が亡命している、山間の小さな町だ。そこで足のないインド人が悲しい顔で物乞いをしていた。初めてインドを旅した私はしょっちゅうインドへ行く友達夫婦の「体に障害のある乞食には無条件にお金をあげる」というルールに従い、その人にお金をあげた。
  次の日の朝、同じ所を通りかかるとまたその人がいた。そこはダライラマの邸宅とチベット仏教の寺へつながる山の尾根道で毎日チベット難民や西洋人などのツーリストが行き交う。たまたま彼の目の前をラマ僧が通り過ぎて行った。物乞いの手を差し伸べる前を、ラマ僧はすたすた? ? 濶゚ぎて行った。物乞いの手を差し伸べる前を、ξねなどと私は勝手に決めつけた。
  夕暮れ時、同じ場所で何とその足のない人が松葉杖で立ち上がり、ふう今日も一日終わったな、さて帰るかといった感じでぴょんぴょんと元気に跳ねていったのを偶然目撃した。その表情といったら、まるでデパートの店員の、閉店の音楽が終わるとともにぱっと営業の作り笑顔が消え、商品をしまい、家路に急ぐそれとなんら変わりがないのだ。
  そうか、あれはあの人のビジネスだったんだと感心してしまった。厳しい環境で生きるために、日本だったら隠しておくようなことをお金を得る手段に変えてしまうなんて。ラマ僧は当然知っていたんだとわかった。

  別の日のバスの中で。混んでる車内で1つだけ席が空いている。隣には汚い格好の家族が座っていて誰もそこに近寄らない。道中長いのに、なんで座らないの?じゃあ座っちゃおう。彼らとニコニコ。子供や母ちゃんと遊んだりして終点に到着した。皆ゾロゾロと降りて行き、私もバスを降りてさあ行こうか、とその時、さっきの家族がちょっと照れ臭そうに、手を出してくる。なんだ、そうか。バスの中ではただの乗客だったのに、降りたとたん今日の仕事が始まるのだ。彼等はこんな風にきちっと働く時間や場所を決め、身一つで暮らしている。

  インドやネパールでは奇形児や知恵遅れの人、耳や目の不自由な人、上手にしゃべることが出来ない人、病気や事故で手足を失った人、そして大変貧しい人もそこいら中たくさんいる。彼らは私たちよりずっとタフで、自分の要求をストレートに突き付けてくる。日本人はその現実に圧倒されてしまい、彼らを直視することが耐えられず嫌悪する人も逃げ出したくなる人もいるだろう。
  だが彼らを見ていると「じゃあ、どうして日本ではそういう人達をあまり見かけないんだろう」という疑問が起こる。豊かな日本では医学のお陰でそういう人はすべて治療されたり、国の手厚い保護によって今はほとんどいないのか?それともどこかに隔離されて家族の大変な苦労の下で生きているのか?もしかして誕生前後に規格外の野菜のように間引かれているのではないか、、、と、どんどん恐ろしいことを考えていってしまう。
  そうでなくても「普通の人」にとって合理的な外の世界に出たくても出られない人達が大勢いるのではないだろうか、というのは私の単純な想像だろうか?例えば東京で通勤・通学で混雑するようなバスや電車の場合、親切に車椅子の人にために座席を取り外せるスペースや駅のホームへ車椅子ごと持ち上げてくれる機械が設置してあるが、空いている時間でも利用する人がいない。そんなものがなくたって、近くの人が手を貸せばいいのに、妙な遠慮が働いているのか、無関心なのか、時間がないのか、お互い声を掛けづらい、気恥ずかしい。

  ある駅でベビーカーのエスカレーター乗り入れを禁止して、エレベーターがあるのに、車椅子以外の方はご遠慮下さいと貼り紙がしてあった上、駅員を呼び出して交渉しないと(しても)動かないところがあった。インドなら言わずとも誰かしら一緒にやってくれるのになあとぼやいてしまう。別の駅では目の見えない人が持つ白い杖を持った人が電車のドアが開いた途端真っ先に飛び出し、一目散に階段を駆け下りて行った。目の悪い私はその人の華麗な身のこなしにこれだ!と感心したのだが、そもそも目の見えない人にとって目の見える「普通の人」のゾロゾロとした鈍い行進の中をかきわけて改札口へ向かう方が大変なことなのかもしれない。
  子供のころ、遠足帰りの電車の中で車椅子の人を、どうしたんだろうと見ていたら、付き添いの大人に「おい!何でお前達、ジロジロ見るんだい!」とおこられた。小さいうちは悪意がなくてこんなことをよくやってしまう。
  きっと付き添いの人は毎日大変で過敏になっているのだろう。周りの大人たちはそういうことを隠そうと知らんぷりしている。でもっちょっと大人が子供たちにそういう人達と接する機会をつくれば、きっと子供の方が上手に気持ちを理解できるようになり、どうしたらいいか考えるようになると思う。大人も遠慮や怖がる気持ちを取り払い、自分と違う人、知らない人と話をしてみてはどうだろうか。

  マドラスの市場でハンセン氏病で手を失った物乞いに出会い、空き缶に小銭を入れた。彼がもっとと手を差し出してきたようだったので「ごめんね、今これしか持ってないんだ」とその腕にそっと手をのせた。そのとき、彼の腕から今まで感じたことのない、すごく明るい光のようなものを受け取ったように感じた。この人は小銭と引換にこんな力を渡してくれたのか、と、びっくりした。
  それまで私は何かしてあげる気持ちばかりで心のどこかで彼らを見下してはいなかったか。私の知らない多くの世界を彼らはたくさん持っていて、私の心が閉じていたばっかりに見過ごしてきたのではないか。こちらがするよりもずっと多くのものを実は彼らからもらっていたのだ。

  彼らを通して、異なった感覚の人が偶然出会った時にお互い伝えあえたら、新しいものが見えて一層楽しいことに気がついた。彼らは苦しい生活をしているのにみんな私よりもずっと明るく、ささいな違いを見つけては無邪気に笑っている。一方で彼らの視線から身を守ろうとして心の底から一緒に笑えなかった自分。子供のころは毎日が彼らと同じようだったのに、いつのまにかそうしていたのを忘れていた。
  貧しい国の人たちはお金持ちの日本が抱えている変な問題を解決する術を当たり前のように身につけているのかもしれない。私たちも心を空っぽにして人に接してみたらそう難しくはないことだ。



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